三木那由他『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』
「会話」という現象の中に含まれる二つの要素について、フィクションの中の実例を取り上げて解説する本。
二つの要素→コミュニケーションとマニピュレーション
コミュニケーション;会話によって交わされる約束事
マニピュレーション;会話を通じて相手の心理や行動を操作すること
第一章……コミュニケーションとマニピュレーション、それぞれの概念の説明
第二章……分かりきっていることをコミュニケートする例
第三章……間違っているとわかっていることをあえてコミュニケートする例
第四章……コミュニケーションにならないとわかっているからこそなされる発話
第五章……コミュニケーションが失敗したときに何が起こるか
第六章……本心をコミュニケーションでは伝えずにマニピュレーションする例
第七章……マニピュレーションを介して相手を誘導する例
感想
現実のコミュニケーションに役立てるというよりかは、好きな作品の会話を深く読むことでより好きになるための本、と言う感じがした。
小説、漫画、映画、ゲームと幅広いジャンルから引用されているので、知っている作品が出てくると嬉しかった。
筆者がトランスジェンダーであるためか、マイノリティを扱う作品が多かったように思える(それらの作品に対する筆者の思い入れも特に強く感じた)。
だから筆者の立場としては社会的弱者に寄り添うことが正しくて、そういう作品こそ価値があるとしているのかもしれない。
気に入らなかったのは、「コミュニケーションが失敗したときに弱者側がツケを払わされる」と言う文脈の中で、平然と男女に線引きをして、女性を社会的弱者・男性を社会的強者にしていたこと。
終盤の第七章も、人の内面を善悪で裁こうとしていて、なんだか説教くさく感じた。
そういう倫理的な言及に目を瞑れば、会話とその裏側にある話者の意思、というものについて考える奥深さを知れるいい本だと思う。
特に僕たちのようなアスペは言外のことを察するのが不得手(本書の言い方だと「成立したコミュニケーション」以外が苦手)だから、こういう風な考え方もあるんだと知るのはいいことだと思った。